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某店店長でもあり、ミステリマニアとしても知られる「政宗九」によるミステリコラム。
これを読めば、あなたもミステリ通です。

2022/02/06 更新

あなたも3分でミステリ通になれる(仮)


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フィクション

法月綸太郎の冒険

著者:法月綸太郎

出版社:講談社

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法月綸太郎の冒険

法月綸太郎さんの第一作品集『法月綸太郎の冒険』は個人的にとても思い入れのある作品集です。
調べてみると、『法月綸太郎の冒険』講談社ノベルス版の発売が1992年11月。その3年後の1995年11月に文庫化しています。
講談社ノベルス版を発売時にすぐ買って、大変に驚いた記憶があります。
最初に収録された中編「死刑囚パズル」がとてつもない傑作だったからです。

ある死刑囚の死刑執行の日。粛々と手続きが進み、いよいよ死刑執行、という段階になって、当の死刑囚が突如苦しみ始め、執行室で死んでしまいます。
毒殺されたのです。
もう死ぬことが分かっており、間もなく確実に死ぬ予定だった男がなぜ死刑執行直前に殺されたのか? 強烈な謎です。
名探偵・法月綸太郎は、関係者全員を集め、明晰な論理によって、この事件の犯人を言い当てます。
その時、ある人物が発したひと言に、法月綸太郎は混乱するのです。
「なぜだ? 何が起こっているのだ? と綸太郎の頭の中で、誰かの声が言った」
法月綸太郎は「誰が犯人か」を見事に指摘したのですが、「なぜ殺したのか」という動機の部分はこの瞬間では分かってないのです。
動機など推理する必要なく、様々な手掛かりから犯人は1人に特定できる、という論理展開の見本のような作品なのです。
そして、真相のヒントは、実にあからさまな形で読者の前に提示されていることに気づかされます(ネタバラシになるのでこれ以上書けませんが)。

『法月綸太郎の冒険』は長らく入手困難な状況が続いていましたが、昨年、TSUTAYAさんが掘り起こし企画のひとつとして新しいカバーをかけて販売しました。
この新しいカバー(正確には「大きくなったオビ」なのですが、ここでは便宜上「カバー」にします)で強調されているのが、まさに「死刑囚パズル」の謎なのです。
このカバーの文章のインパクト。つい手に取ってしまうのではないでしょうか。

もちろん、『法月綸太郎の冒険』は「死刑囚パズル」だけではなく、ほかも傑作揃いです。
「黒衣の家」はラスト1ページで犯人の意外な動機が明かされる作品。
「カニバリズム小論」は「なぜ犯人は殺した女性の肉を焼いて喰ったのか」という「奇怪な行動の謎」が強烈です。
「切り裂き魔」「緑の扉は危険」「土曜日の本」「過ぎにし薔薇は……」の4作は、本にまつわる謎を追う「図書館シリーズ」。どれも謎と論理の融合が面白いです。

法月綸太郎さんは、エラリー・クイーンのファンであることはよく知られています。
名探偵は作者と同名の人物だし、お父さんが警視だという点もクイーンと共通しています。
第一短編集『法月綸太郎の冒険』が出た時、クイーン作品のタイトルに倣って「次の短編集はきっと『新冒険』だな」と思っていたら、やはり『法月綸太郎の新冒険』でした(1999年講談社ノベルス、2002年講談社文庫)。
残念ながらこちらは入手困難のままです。『冒険』が売れれば『新冒険』も重版されるかも……と淡い期待を抱きながら、店頭でも仕掛け販売しています。

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