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本さえあれば、日日平安

本さえあれば、日日平安

長迫正敏がおすすめする本です。


本さえあれば、穏やかな日日。ほっこりコラム連載中です。本好きのほんわかブログ・「本さえあれば、日日平安」
本好きの、本好きによる、本好きのための“ほんわか”。一日を穏やかに過ごす長迫氏のおすすめ本はこれ!

2023/05/14 更新

本さえあれば、日日平安


長迫正敏がおすすめする本です。


コミック

ひらやすみ 1.

著者:真造圭伍

出版社:小学館

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ひらやすみ 1.

明石家さんまさんは1冊の本を2ヶ月くらいかけて読まれるそうだ。なぜなら「書いてあることにひとつずつツッコミを入れてしまう」から。言い換えれば、いちいち連想してしまうのだ。例えば「公園に行った」と書いてあれば、「俺も公園に行ったことがある…」とつい自分のことに置き換えてしまうから、とのことである。
おこがましいが、「一緒だ」と思った。私も読んでいる最中に連想したり、空想したり、〇〇〇な妄想をしたりすることがよくある。

本を読んでいる途中で意識が別のことに向くなんて、作者の方に失礼では、というご意見もあるだろう。でも読書は自由。どんな場所で、どんなタイミングで、どんな格好して読むのも自由ならば、どれだけ時間をかけても、そして何を感じて、何を想ってもいいはずだ。

それに、書いてあることにツッコミを入れるのは「集中していない」のではなく、逆に「真剣に向き合っている」からこそ出来ることだという。

心理学者の植木理恵さんによると、さんまさんがバラエティー番組の時に集中力が絶対切れないのは、「前のめりになって、ずっとツッコミ入れて、人の話を批判的に聞いているから」である。
同じように「全部に前のめりになりながら、自分はそこは違うとか、自分ならこうするとか、いちいちツッコミを入れながら」本を読んでいるのではないか、と分析されている。

若い人がいうところのレベチだった。私と「一緒だ」という前言を撤回せざるを得ない。「何となく似てるところもある、かも」とだけ言っておきたい。

また別の読書に関する言葉を思い出した。そう、読みながらではなく、書きながら連想したのだ。
ずいぶん前だが、ある会議にて書店員として本を読むのは当然との前置きがあり、「でも間尺にあわん本を読みんさいよ」と言われた。会計事務所の会長をされていて漢詩に造詣が深い方だった。

「ましゃくにあわない」とは、割に合わない、利益にならない、損になる、といった意味だ。
「わが意を得たり」と感じた。良書であるとか名作だからとか、読めば役に立つ、でなくてもいいのだ。楽になった。そもそも本を読むということ自体が、コスパもタイパも悪い、間尺に合わない行為なのだ。

だが突き詰めれば、人が生きる、とはそういうことだ。人生、たいがいが間尺に合わないことだらけなのだ。

『ひらやすみ 1.』 真造圭伍 小学館

生田ヒロト、29歳、フリーター。彼は、人柄のよさだけで仲良くなった近所のおばあちゃんから、タダで一戸建ての平屋をゆずり受けることに。そして上京してきた18歳のいとこ・なつみちゃんと二人暮らしを始めました。不安や戸惑い、生きづらさも、きっと癒しに変わる平屋暮らし、スタートです。

ヒロト君は、おばあちゃんには「素敵なお召し物ですね」なんてスッと言えるのに、タイプの女性に対するとモジモジしてしまう。また、ちゃんと就職して結婚した友人から、子どもが出来たからもうそんなには一緒に遊べない、と言われても羨むことなく素直に友達の幸せを願うことができる青年だ。
でも彼は、人を好きになるということが、いまひとつ分からない。幸せってなんだっけ?

本書には、ヒロト君のような素直な不器用さん、ヒロト君とは真逆な考えすぎな不器用さんが登場する。
彼ら彼女たちに教えてあげたい。たとえ間尺に合わなくても、「生きてるだけで丸もうけ」なのだと。

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