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いつか読書をする人へ

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井上いつかがおすすめする本です。


啓文社スタッフ「井上いつか」による本のレビューです。井上いつかがお送りするコラム!
啓文社のスタッフであり、『本の虫』としても有名な「井上いつか」がオススメする本のコラムです。さて、今回はどんな本でしょう?

2023/06/18 更新

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井上いつかがおすすめする本です。


フィクション

笹森くんのスカート

著者:神戸遥真

出版社:講談社

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笹森くんのスカート

中学の頃は、セーラー服だった。
紺色という色がもともと好きだったので着る際に気分は悪くなかったと思う。
全身紺色、ひざを隠す長いスカートは、着ぐるみや寝袋のようにすっぽり隠れてわたしが見えなくなってるような気がしてむしろ安心感があったと思う。
みんな同じ服、同じ髪型、きっと敵に見つかりにくい。

高校の制服はブレザーだった。
周りの友達や、お下がりで貰ったスカートは、おしりが見えそうなミニ丈だった。みんなそうなのでそんなもんかと思って毎日履いていたけれど、クラスに何人かいるひざまでの長いスカートを履いている子が、冬は特にうらやましかった。
どちらにしても、わたしはみんなに紛れ込んで目立ちたくなかったのでそれを選んでいただけだ。
長いすね丈のスカート。
ひざ上のミニスカート。
スカート。

大人になってだいぶ経ちます。
背中に啓文社のロゴが入った白いボタンダウンシャツ。
黒いズボンにスニーカー、緑色のエプロン。
いつまでも制服を着続けることってあるんだなあ。
もはや人生で一番着ている服ってこれだわ。
友達や親にも、白黒の上下でないとびっくりされるようになってきた。
『いつかは、啓文社の制服が一番にあうねぇ…』と母に以前しみじみ言われました。明るい色の服でおしゃれしたつもりの時に…!!逆・馬子にも衣装…!?


ジェンダーフリー制服。
スカートか、スラックスか選べます。と言われたら。
今、わたしが高校生だったらどうするだろう。
もはや鋼鉄になったオトナハートの今なら、スラックス一択かな?
いやいや、夏はスカートで冬はスラックス。これが一番快適だろう。
男性の皆さん、スカートって涼しくて気持ちいいんすよ!

でも、あの頃のわたしならどうだろう。
とにかく多勢に紛れ込みたかった。
埋没したかった。
目立ちたくなかったあの頃。
制服を選ぶことで、何かを表明してしまいかねない、そんな選択がわたしにできるだろうか。

今ならば、何の意味もなく選ぶことができるのに。
べつに意味なんかあってもいいし、なくてもいいのに。


夏休み明け、作草部高校1年生の笹森くんは、スカートを履いて登校してきた。
それによって、当たり前に毎日過ごしていたクラスメイト達の、いろいろな気持ちが浮かび上がってきます。

あの頃、どれだけのことを『当たり前』という分厚いフタで封印してきただろう。
自分の分かることしかわからない、それはいい。
自分の分かること以外はー『ない』。
それが一番こわいこと。
だからわたしは、あの頃から今まで、とにかく本を読む。
偽善でも傲慢でも、『わからない』『知らない』を少しでも踏み越えたい。

笹森くんのように軽やかに、みんなが『選択』する世界であれ。

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