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あなたも3分でミステリ通になれる(仮)

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政宗九がおすすめする本です。


某店店長でもあり、ミステリマニアとしても知られる「政宗九」によるミステリコラム。
これを読めば、あなたもミステリ通です。

2023/07/28 更新

あなたも3分でミステリ通になれる(仮)


政宗九がおすすめする本です。


フィクション

可燃物

著者:米澤穂信

出版社:文藝春秋

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可燃物

『黒牢城』(KADOKAWA)で直木賞と山田風太郎賞をダブル受賞し、その年のミステリランキングをほぼ制した米澤穂信さん。その最新作『可燃物』は、群馬県警の葛(かつら)警部が探偵役となるシリーズです。
刑事が主人公の小説は米澤さんにしては珍しく、「あの米澤穂信さんが警察小説を?」と思われるかも知れませんが、警察組織を描いたり、その中のアウトロー的な刑事を描いたり、といった、いわゆる「警察小説」ではありません。警察小説っぽい書き出しで始まりますが、読み終えてみると、間違いなく「本格ミステリ」だ、と確信する短編5編で構成されています。

米澤さんはインタビューで、あくまでも書きたいのはミステリであり、そのアイデアを実現させるために必要だから設定を作る、という趣旨の発言をよくされています。『黒牢城』でも、時代小説を書きたかった、というよりは、ミステリのアイデアを活かす舞台として時代小説の設定が必要だったのですね。今回も、警察しか知りえないようなデータを捜査によって集め、そこから真相を推理する過程が必要だからこそ、刑事を主人公にしたのだと思います。
(このコラムの下に、『可燃物』に関するインタビュー記事へのリンクを張っています。ご参考まで)

スキー場で遭難した人物は刺殺されていた、しかし、肝心の凶器が見つからない……「崖の下」
強盗致傷事件の容疑者が起こした交通事故。ひったくり常習犯の容疑者が交通事故を起こしたが、なにか違和感がある……「ねむけ」
観光名所にもなっている回廊で見つかる人間の腕。さらに各パーツが次々と見つかり、バラバラ殺人として捜査する。被害者に金を貸していた男が返済を迫って殺人に至ったのではないか、と容疑者が逮捕され、本人も自白しているが、その娘は父親の犯行を否定する……「命の恩」
ごみ集積所で連続して発生する放火事件。だが、真相が見えないうちに、放火がピタリと止まってしまう……「可燃物」

といった感じで、葛警部が捜査中に感じる「違和感」を鋭く突きとめていく、鮮やかな作品集ですが、私が特に感心し、痺れたのが最後の「本物か」。ファミリーレストランで発生した立てこもり事件を描いた作品で、立てこもり犯が持っている拳銃が本物かどうか、一見すると分からない……という話なんですが、ラストに待ち受ける真相が衝撃的です。まさに米澤ミステリの神髄が味わえます。

どんな作品でも常にクオリティの高いミステリを発表し続ける米澤穂信さん。早くも次の作品が楽しみです。

ミステリーを書くために“警察”を選んだ――『可燃物』(米澤穂信)

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