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あなたも3分でミステリ通になれる(仮)

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政宗九がおすすめする本です。


某店店長でもあり、ミステリマニアとしても知られる「政宗九」によるミステリコラム。
これを読めば、あなたもミステリ通です。

2023/09/28 更新

あなたも3分でミステリ通になれる(仮)


政宗九がおすすめする本です。


フィクション

午後のチャイムが鳴るまでは

著者:阿津川辰海

出版社:実業之日本社

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午後のチャイムが鳴るまでは

前回のコラム(といっても、つい先日ですが)では、往年の推理作家・佐野洋さんを紹介しましたので、
今度は、これからの期待の作家さんを紹介します。
今、私が「日本ミステリの未来を引っ張っていく存在になる」と確信しているのが、阿津川辰海さんです。
いまのうちに、名前だけでも覚えて帰ってください。


阿津川辰海さんは2017年、光文社の新人発掘レーベル「カッパ・ツー」からデビュー。なんで「ツー」なのかというと、光文社が2000年代に「カッパ・ワン」という名で新人発掘を行い、ここから、東川篤哉さん、石持浅海さん、林泰之さん、加賀美雅之さんを第一期として新人がデビューしていきました。最近『5A73』が話題になった詠坂雄二さんも実は「カッパ・ワン」デビュー組です(第五期)。第五期をもって一度終了した企画を2010年代に再スタートさせたのが「カッパ・ツー」というわけです。「カッパ・ツー」は「カッパ・ワン」出身の東川篤哉さん、石持浅海さんが選考委員を務められています。

阿津川辰海さんは、その「カッパ・ツー」第一期の受賞者として、2017年『名探偵は嘘をつかない』でデビューされました。
阿津川さんが注目されたのは2019年、講談社タイガから出た『紅蓮館の殺人』。
みんな大好き館もので、館ものミステリのガジェット満載の仕掛けに本格ファンが狂喜乱舞しました。同シリーズとして『蒼海館の殺人』もあります。
そんな中、2020年に出た短篇集『透明人間は密室に潜む』(現在は光文社文庫)がすごい傑作で、震えました。表題作を含め、ちょっとユーモア寄りな作品もあるのですが、明らかに「ミステリにめちゃくちゃ詳しい人が、ミステリを熟知した上で王道をハズしにかかっている」ことが読み取れるような作品ばかりで、大変感心しました。
この系統の作品として、『入れ子細工の夜』(光文社)もあります。これもマジ傑作。
また、『透明人間は密室に潜む』収録短編「盗聴された殺人」のシリーズにあたる長編『録音された誘拐』(光文社)が、これまた大変な傑作でして、私は2022年のベストに挙げたくらいです。人一倍聴力の優れた探偵が活躍するのですが、読者の予想を遥かに超えるアイデアが満載だったのです。

阿津川さん、なんと驚くべきことにまだ二十代だそうでして(1994年生まれ)、なんでこんなにミステリスピリッツ溢れる作品が次々書けるのだろう、と思っていたら、その読書量がもう半端ないんですよ。
読書コラムを収録した『阿津川辰海 読書日記』(光文社)という本があるのですが、これが「本格ミステリ大賞」の評論部門を受賞されるくらいのレベルなのです。
私でもこんなには読んでないです。
例えば、ディック・フランシスの競馬シリーズ、今となっては入手できる作品もわずかしかないのに、そのシリーズの約半分を読んでベスト10を紹介されている回など、マジで震えます(第14回 ディック・フランシス「不完全」攻略 ~年に一度のお楽しみ~)。
ちなみに、このコラム、ネット上で現在でも連載されています(リンク貼っておきます)。
その読書日記のタイトルは「ミステリ作家は死ぬ日まで、黄色い部屋の夢を見るか?」。これも実は、都筑道夫さんの『黄色い部屋はいかに改装されたか?』へのタイトルオマージュになっており……もう、どんどん深みにハマりますね。


またしても前置きが長くなりました。
本題はサラッと紹介して終わりにします。


紹介するのは、その阿津川辰海さんの2023年9月発表の傑作短篇集『午後のチャイムが鳴るまでは』(実業之日本社)です。
九十九ヶ丘高校を舞台にした日常の謎連作でして、昼休みの65分間の間に、外出禁止の学校の外に出てラーメン屋でクーポン券を使ってタダでラーメンを食べようとする「RUN! ラーメン RUN!」から始まり、消しゴムでトランプのカードを作ってポーカーに興じる、阿佐田哲也みたいな世界の「賭博師は恋に舞う」、かの名作「九マイルは遠すぎる」(ハリイ・ケメルマン)へのオマージュ「占いの館へおいで」など、それぞれに大変面白い青春ミステリ、なのですが……これ、最終話までちゃんと読んでくださいね。文字通り、アッと驚きますから。ええっ、そんな話だったの? と感嘆してしまいます。

一筋縄ではいかない、阿津川辰海さんの真のすごさが味わえる作品だと思います。ぜひ。

ミステリ作家は死ぬ日まで、 黄色い部屋の夢を見るか? ~阿津川辰海・読書日記~

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