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いつか読書をする人へ

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井上いつかがおすすめする本です。


啓文社スタッフ「井上いつか」による本のレビューです。井上いつかがお送りするコラム!
啓文社のスタッフであり、『本の虫』としても有名な「井上いつか」がオススメする本のコラムです。さて、今回はどんな本でしょう?

2006/08/08 更新

いつか読書をする人へ


井上いつかがおすすめする本です。


文庫

それから

著者:夏目漱石

出版社:新潮社(新潮文庫)

定価:420円(税込)

それから

『蟻の座敷へ上がる時候になった。代助は大きな鉢へ水を張って、その中に真白な lily-of-the-valley(リリー・オフ・ゼ・ヴァレー)を茎ごと漬けた。』
高校の国語の教科書に載っていた「それから」は、物語の中頃のこの一文からいきなり始まっていました。
「蟻の座敷へ上がる時候」・・・初夏の事。
「lily-of-the-valley(リリー・オフ・ゼ・ヴァレー)」・・・鈴蘭の事。
など細かく説明も付いていました。
今までなんとなく読み流していた、古くさい文章だなぁと思っていたものが、こんなにも豊かな意味を持っていたんだ!!と、その時やっと理解する事ができました。
植物や生き物、食べ物などで、季節や時間の過ぎた事を知る。昔は当たり前で、わたしがほとんど知らずに育った、日本人の細やかさや日本語の美しさを教わりました。
あと、学校の授業にも、時々意味のある事は起こるんだな~、という事も知りました

「坊ちゃん」よりも「こころ」よりも、「それから」が好きです。代助が三千代に想いを告げる所は、何度読んでも、めまいがするくらいかっこいい。そして、小説の終わりは息をするのが苦しくなるくらい読んでいてつらい。
新潮文庫では、代助が鉢へ漬けた「lily-of-the-valley」は、ただの鈴蘭と載っています。少し残念だな。
他社の文庫はどう載っているのか、今度見てみようと思っています。

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